研究概要 |
動物の悪性腫瘍における多段階発癌の分子機構を解明するため、犬および猫の自然発生腫瘍における細胞遺伝子の変化について分子生物学的解析を行った。 ネコにおいてmyc遺伝子と協同して働く遺伝子をコードしている可能性があるfit-1領域のゲノミッククローニングを行い、約18kbのフラグメントを単離した。このfit-1領域は、哺乳類において比較的よく保存されており、2種の細胞株において低レベルではあるが発現していることが確認された。 ネコにおいて新しい癌抑制遺伝子として注目されているWAF1,Kip1およびMTS1遺伝子遺伝子クローニングに成功し、これらの塩基配列の決定を行った。また、イヌの悪性腫瘍におけるp53遺伝子の不活化を全コード領域をカバーするPCR-SSCPによって解析したところ、骨肉腫、大腸癌、急性白血病、リンパ腫などの悪性腫瘍症例の半数異常の症例において、p53遺伝子の変異、不活化が検出された。 ネコのリンパ系腫瘍において染色体解析を行った結果、半数以上の症例において、トリソミ-、欠失、相互展座が見い出された。さらに、免疫グロブリンのH鎖および、L鎖、T細胞レセプターのα,β,γ,δ鎖の染色体マッピングを行い、これらが存在する染色体および座位を同定した。現在、染色体異常と遺伝子変異の関連を検索している。 これら、一連の分子生物学的解析から、同一症例において、変化を起こしている複数の癌遺伝子、染色体、レトロウイルス遺伝子を明らかにすることができ、動物の悪性腫瘍における多段階発癌の分子機構について多くの新しい知見が得られた。
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