イシマキガイはこれまでに明らかになっている耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオの唯一のレゼルボアである。しかし、本貝の消化管へのTDH産生菌の定着機構は明らかになっていない。さらに、熱帯・亜熱帯地域におけるTDH産生菌のゼルボアも明らかになっていない。そこで本年度はTDH産生菌の経口投与にともなうイシマキガイ消化管の細菌性応答を走査型電子顕微鏡で観察するとともに、亜熱帯地域に属する沖縄の汽水域におけるアマオブネガイ科巻貝類の分布調査を行った。 沖縄本島の河川の汽水域でアマオブネガイ科巻貝類の分布調査を行った。その結果、イシマキガイは本島南部には分布しないこと、本島北部の満名川、我部祖河川、辺野喜川、福地川、有銘川に多数生息することが判明した。この地域にはイガカノコ、フネアマガイ等も分布しており、特に、フネアマガイは大川川と与那川で個体数が多いことから、腸炎ビブリオのレゼルボアである可能性が高い。 イシマキガイとアマオブネにTDH産生性腸炎ビブリオD3株を経口投与した後、イシマキガイは20‰人工海水、アマオブネは35%人工海水中で飼育した。経時的に貝を取り出して消化管を摘出し、固定・金蒸着を行った後、走査型電子顕微鏡で消化管粘膜の表面を観察した。その結果、アマオブネの消化管下部で多数の血液細胞の遊出像が認められたが、イシマキガイの成貝では血液細胞の遊出像が稀にしか認められず、イシマキガイ稚貝では血液細胞の遊出像は全く認められなかった。この成績から、アマオブネは消化管内の腸炎ビブリオを異物と認識しているが、イシマキガイ稚貝は消化管内の腸炎ビブリオを異物と認識していないと思われる。このことが、イシマキガイとアマオブネの消化管内における腸炎ビブリオの定着の可否につながっていると結論づけられる。
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