耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオをイシマキガイに経口投与した時の、イシマキガイ消化管の細胞性応答を走査型電子顕微鏡で観察するとともに、亜熱帯地域に属する沖縄の汽水域におけるアマオブネガイ科腹足類の分布、沖縄産の腹足類と甲殻類のTDH産生菌の保有状況を調査した。 〔腹足類の分布状況〕沖縄本島北部の河川の汽水域でアマオブネガイ科腹足類の分布を調査した結果、イシマキガイは本島南部には分布しないこと、本島北部の河川の汽水域にはカノコガイ、イガカノコ、ドングリカノコ、フネアマガイ等が分布しており、イシマキガイはこれらの腹足類の分布域よりも上流の淡水域に分布していることが判明した。このことから、この地域ではイシマキガイよりも、汽水域に分布する上記4種類の腹足類が腸炎ビブリオのレゼルボアとなりうる可能性が高いと考えられる。 〔TDH産生菌の分布調査〕沖縄本島北部の河川の汽水域でアマオブネガイ科腹足類を採取し、PCR法でTDH産生菌の検出を行った。しかし、TDH産生菌は検出されなかった。一方、三重県の宮川および五十鈴川で採取したイシマキガイからは各々2.1×10^5/gおよび3.0/gのTDH産生菌が検出された。 〔イシマキガイ消化管へのTDH産生菌の定着〕TDH産生性腸炎ビブリオD3株を経口投与したイシマキガイ稚貝を20‰人工海水中で飼育した。経時的に貝を取り出して消化管を摘出し、固定・金蒸着を行った後、走査型電子顕微鏡で消化管粘膜の表面を観察した。その結果、消化管下部で血液細胞の遊出像が認められたが、菌の定着像は認められなかった。菌の定着部位については、さらに解析が必要である。
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