日本紅斑熱の非流行地でしばしば野鼠に紅斑熱に反応する抗体が認められることが知られている。本研究はこの非流行地で認められる抗体の由来を明らかにすることを目的としており、併せて日本紅斑熱リケッチアの分布も明らかとすることを目的としている。今年度はこの非流行地である北海道江別市の3000町歩あまりの原始林及びその周辺においてアカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミなどを採集し、抗体保有、リケッチアの分離を図った。抗体保有率は最も重要な日本紅斑熱の病原巣と考えられるアカネズミで高かったがエゾヤチネズミデモ抗体を保有することが明らかとなった。しかし、ヒメネズミでは抗体保有は認められなかった。これはヒメネズミがアカネズミより樹上生活に適応している結果と考えられた。これらの材料を採集場所ごとに検討すると地点ごとに差が認められた。予備的に行ったダニの採集調査でのダニの分布の濃淡と良く一致し、これらの地点で採集されたダニは主としてシュルツエマダニとヤマトマダニであった。これらのデータはダニを感染源とする紅斑熱群のリケッチアの存在を支持するものであった。しかし、陽性が認められたネズミの脾臓を免疫抑制したマウスに投与し、継代を繰りかいしたが接種マウスにおける抗体陽性の出現は不定であり、かつ抗体価も低かった。またこれら継代したマウスの脾臓には遺伝子増幅法を用いても紅斑熱群に共通する遺伝子の存在は証明されなかった。現在、抗体の特異性の検討を含めて再検討している。(第120回日本獣医学会)。 タイ国で1970年代に採集されたRattus属のネズミの血清について検査し、日本紅斑熱リケッチアよりむしろタイ固有のリケッチアが分布していることが確かめられた。
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