本研究では炎症時における血小板と中枢・末梢のα_2-アドレナリン受容体(AR)活性の相関性を明らかにする目的に対して、イヌ血小板凝集に関与するα_2-ARの薬理学的性質を解析し、イヌの炎症時における血小板と脳のα_2-AR活性(数と親和性)の変化とα_2-AR作動薬投与の反応性を検討した。その結果、エピネフリンの血小板凝集促進効果はα_2-ARを介し発現され、イヌ血小板におけるα_2-ARの存在を薬理学的に明らかにした。また、α-受容体作用性および非α-受容体作用性の各種イミダゾリン誘導体の血小板凝集抑制効果について検討した結果、α_2-ARとは異なる別のイミダゾリン受容体がイヌ血小板にも存在する可能性を示唆した。エンドトキシン投与による急性炎症時にはα_2AR数は血小板と脳で低下傾向し、その親和性は血小板で低下、脳では増加傾向を示した。また、α_2-AR作動薬投与後の徐脈、末梢血管抵抗増加などの循環器系の反応はエンドトキシン前処置により減弱された。局所の慢性炎症時ではα_2-AR作動薬投与後の鎮静、徐脈などの反応が減弱される傾向を示し、α_2-AR遮断薬のヨヒンビンの血小板凝集抑制効果も減弱される傾向を示した。また、慢性炎症により血小板のα_2-AR数が減少、脳のα_2-AR親和性が低下する傾向を示した。以上のように、本研究で作出した犬の炎症モデルは、血小板と脳のα_2-AR数と親和性を変化させ、α_2-AR作動薬投与後の鎮静効果、循環器系などへの反応性に影響を及ぼし、α_2-AR遮断薬の血小板凝集抑制効果へも影響を与えることを明らかにした。従って、炎症時における血小板α_2-AR変化の検索は中枢と末梢のα_2-アドレナリン受容体活性変化のモデルとして診断的意義を持つ可能性が示唆された。
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