研究概要 |
腹腔の生体防御機構を明らかにするために、腹膜中皮細胞と免疫担当細胞との相互作用、及びそれに関連した細胞接着分子の動態について微細構造学的視点から研究を進めてきた。 平成7年度の研究ではラット腹膜中皮の微細構造と接着分子(ICAM-1)の微細局在に関し免疫SEM法で検索した結果ICAM-1が腹膜中皮の微絨毛に限って発現してくるという所見を得た。またICAM-1は正常状態でもわずかに発現し、LPS刺激により増加し24時間でピーク達した。 平成8年度は、実験的炎症状態(虫垂炎)における腹膜中皮と炎症細胞との相互作用を中心に調べた。ラット虫垂を穿刺し人為的に虫垂炎を作成し、その後2日までの間に穿刺部位に集まる白血球と腹膜中皮との相互作用を前回と同じように細胞接着分子の発現の観点から免疫SEM法で検討した。腹膜中皮にICAM-1の発現が中等度に増加し、腹膜に接着するマクロファジ-にはICAM-1のカウンターレセプターであるLFA-1,Mac-1の発現が認められた。Mac-1は活性化された場合突起に出ることが多かった。これらの結果から、腹膜中皮の微絨毛白血球の突起との相互作用は明らかであり、腹膜中皮は白血球の遊走を円滑に行うための場として意義があるという前回の考えはより明確に裏付けられた。 平成9年度は対象とする接着分子の種類を増やし、同時にこれまでの結果を統計的に処理し、腹膜中皮の生体防御器官としての役割を統合的に解析した。腹膜にはICAM-1以外にVCAM-1も発現し、両者は刺激の量に比例し増加した。同時に強く接着する白血球も増え、これらのに間に密接な関係があることがわかった。すなわち白血球の遊走を介する腹膜防御機構に正常状態ではICAM-1が、炎症状態ではICAM-1とVCAM-1の両者が深く関係することが明らかになった。
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