脊椎骨のパターン形成の過程では、前後軸と腹背軸というふたつの体軸が決定されねばならない。脊柱管は、脊索と傍軸中胚葉である体節とから発生してくる構造物であるが、その最初の腹背軸の決定は、体節周辺の組織である脊索、神経管や表面外胚葉などからの誘導によってひきおこされる。その誘導の結果として、体節の背側部分は皮筋節へと分化し、腹側部分は硬節へと分化していく。硬節が脊椎骨の原基を形成する過程の中で、硬節細胞の腹背軸が決定され、それはいくつかの分子マーカーの発現によって表現されることが示されている。転写因子であるPax-1とPax-9は腹側部分で強く発現するのに対し、msx-1とmsx-2は神経弓原基で強く発現している。このうち、Pax-1の機能は脊椎骨の腹側構造の形成と強く相関していることを私たちは示してきた。Pax-1遺伝子座の変異によって生じるundulated変異マウス系統では、硬節細胞の脊索周辺への凝集過程が障害され、その結果として、椎体の欠損、または、椎体中央部分における二分割が脊柱管全長にわたって観察される。脊索から分泌されるsonic hedgehogによって誘導されるPax-1の発現により硬節細胞は、脊索周辺に集積して椎体原基を形成することが示された。脊索周辺の細胞集積が形成された後、Pax-1の発現は、椎体原基を取り囲む椎間板原基を含む増殖層に限局していき、軟骨芽細胞に分化した細胞では発現が認められなくなる。この過程では、Pax-1は椎体原基の伸展とそれに引き続いて起こる分化、特に、椎間板原基の分化過程で重要な役割を果たす。このように、Pax-1の発現は脊椎骨の腹側構造の形成に極めて重要な役割を果たすことが機能欠失マウスの解析を通じて明らかにされた。本研究では、Pax-1の生物学的機能についてさらに解析するために、Pax-1を過剰に発現するマウスを作成し、その表現型を解析した。その結果、Pax-1タンパク量は、硬節細胞の増殖と凝集に重要であるほか、肋骨原基の移動にも重要な役割を果たすことが示された。そしてPax-1タンパクが、細胞増殖と細胞接着という2つの異なる細胞機能を協調させることで、脊椎骨のパターン形成をコントロールする分子であることが示唆された。
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