研究概要 |
新生児期から小児期の剖検例の脳に磁気共鳴断層撮影MRIを施したのち、その脳切片の一般的髄鞘染色観察を行うとともに、凍結切片の偏光観察によって、白質の有髄化度を、そして発達度を評価することを試みた。 1.有髄線維の存在は、髄鞘染色によって証明される時期よりもずっと早くから、偏光性構造の存在によって認められる。 2.神経線維は、完全に髄鞘が完成する以前から、繊維束として、まとまって一定方向の走行を示すようになる時期から、構造性偏光性を示し始める。そして、この時期から、MRIにおいて、T1強調像では低信号域として、またT2のそれでは、高信号域として認められるようになる。 2'.上記の繊維束の走行方向は、直交ニコルの偏光子の角度から求めることが出来る。 3.白質中で線維の走行が錯綜している。たとえば半卵円中心で、交連、投射および連合線維が交錯している領域は、偏光観察で、偏光子の角度の如何にかかわらず偏光性が弱いが、このような領域は、MRIのT1,T2いずれの強調像においても、高信号域として観察される。 4.白質の中心部での高信号域は、これまで細胞密度の高い部位に対応するとの考えがあったが、今回の観察所見では、皮質直下の狭い部位を除いて、信号域境界部での細胞密度の特別な勾配を検することは出来なかった。 以上から、発達期の脳のMRI像において、その経時的変化の形態学的背景として、これまでのように白質のいわゆる有髄化の程度や白質中の細胞密度のみを対象としているのでは十分ではなく、白質中の線維の繊維束としての形態形成や、その繊維束の走行をも考慮に入れる必要があることが分かった。
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