1.材料の収集と標本の作成 (1)人間の脳のクモ膜顆粒(クモ膜絨毛)を矢状静脈洞を含めてまとまった組織片として採取し、光顕用として連続切片材料とした。また、新鮮材料は一部走査電顕、透過電顕用とした。 (2)実験的にブタを用いて、クモ膜下腔に墨汁を注入し、その動態を走査電顕で解析した。 2.研究の経過 (1)光顕所見 脳脊髄液の吸収(血管腔への流入)と関連すると考えられるクモ膜顆粒(クモ膜絨毛)の形態構造は複雑で従来の教科書的な記載所見と大なる相違があり、その組織像の解明が不可欠と考えられる。今回、光顕的知見として、(1)クモ膜顆粒は硬膜静脈洞内へ突出しているだけではなく、硬膜内の結合組織間内にも多数の集簇巣として存在する。(2)硬膜内に分布する割合が太い静脈内にも顆粒として出現していることが認められる。(3)クモ膜顆粒はクモ膜下腔の組織と連続しており、洞内に突出する部分では、同様にクモ膜細胞が互いに多くの突起を分岐して複雑な網工をなし、突起間に腔所(小管腔形成)が見られCoreを形成している。この小腔所内は脳脊髄液の流路と考えられている。このCoreの部分を連続切片として光顕的に描画し、立体的再構築することにより組織像の解明をすべく研究継続中である。 (2)電顕所見 走査電顕を研究の手段として使用した。所見として、静脈洞内皮直下とクモ膜細胞が集簇し顆粒として網工を形成するCoreとの間に必ずsubendothelial spaceが認められる。当然この腔所には髄液が環流していることが予想され、洞内皮組織を通じての液体・物質の移動が示唆される。この間の交通路を確認すべく検索を継続中であるが、現時点では充分な結論は得られていない。 (3)実験的所見 実験動物としてブタを使用した。クモ膜下腔に注入された墨汁は確かに静脈洞へ移行する。この移動の機序については現時点では不明であり、光顕・電顕とも合わせて実験を継続して検討したい。
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