直鎖DNAをゲノムとする広範な生物種の染色体末端は(TTAGGG)nのテロメア配列で構成され、正常体細胞では細胞分裂の度に短小化することが知られている。しかし、生殖細胞や腫瘍細胞ではテロメア配列の短小化を防ぐためテロメレース遺伝子が活性化し、テロメア配列を伸長させている。本研究ではヒト線維芽細胞とその変異株、および腫瘍細胞についてテロメア配列の短小化の程度、テロメレース酵素活性を調べ、テロメア配列の変動とテレメレース酵素活性の変化がどのような生物学的意味を持つか検討した。正常線維芽細胞3株と、これらをウイルスSV40、またはコバルト照射によってトランスフォームした細胞株、および血液腫瘍細胞7株、N-myc増幅型神経芽細胞腫13検体についてテロメア配列の長さ、テロメレースの活性、テロメア配列の核内、染色体内分布を調べた結果以下の点が明らかになった。 1)SV40やコバルト照射でトランスフォームした細胞株では3株すべてにテロメア配列の顕著な伸長が観察された。しかし、テロメレース酵素活性はほとんど検出されずテロメレースに依存しないテロメア配列の伸長があったことを示唆している。 2)これらの細胞の染色体、細胞核について蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行った結果、テロメア配列の伸長が一部の染色体の末端で局所的に発生していることが明らかになった。テロメア配列の局所的増幅は静止核においても確認された。 3)血液腫瘍細胞、N-myc増幅型神経芽細胞腫では全例でテロメア配列の短小化とテロメレースの活性が観察された。しかし染色体、核にはテロメア配列の局所的増幅は見られず、SV40やコバルト照射でトランスフォームした細胞では腫瘍細胞とは異なる機構で無限増殖能を獲得していることが示唆された。
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