1)カニクイザルの網膜中心窩の連続超薄切片の解析から、錐体視細胞小足における双極細胞とのシナプス結合を調べた。ON型双極細胞は陥入型シナプスをもつと見なされていたが、基底型シナプスも存在することを明らかにした。2)サル網膜の色覚経路に水平細胞がどのように関与するか、を調べるために、HI型とHII型の水平細胞を立体構築した。HI型は7、8個の赤および緑の錐体視細胞との間に約40個のシナプスをもつ。HII型は赤と緑だけでなく青錐体からも入力を受けることが特徴であり、受容野が比較的広い。3)ニホンザルの網膜の側頭側3.5mmに分布する錐体と杆体の両型視細胞の軸索とシナプス終末部を形態的に比較した。錐体と杆体の間には電気信号の伝達、シナプスでの化学的伝達に関係する多くの構造上の相違があった。4)シナプス小胞の膜の軸索輸送を調べるために抗シナプトフィシンの免疫組織化学を試みた。試料としてニホンザルの網膜を京都大学霊長類研究所から得た。凍結切片の光顕レベルの検索に成功した。5)良好に固定されたニホンザルの網膜中心窩の試料が得られたので、予備的な電顕観察を行なった。中心窩の底部にとりわけ中央に近い錐体小足が観察された。この錐体の2次ニューロンへの拡散の検索を続行する。6)当初に計画した、赤色光による照射とNTBを用いる酵素組織化学で赤錐体を特異的に標識する、という方法は、1977年のScience論文に基づく。日本でも魚網膜に適用された例があり、積極的な結果が出ている。しかし、この方法は再現性がよくない。最近、細胞内情報伝達系の一つとして、一酸化窒素(NO)が脚光をあび、その存在が脊椎動物網膜の視細胞内節で証明されている。NOの活性を組織化学的に調べるのにNTBを使うことから、以前の実験結果がNOと関連しているかも知れない。十分な方法論の検討が必要なため、今回は実施を見合わせた。
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