研究概要 |
平成8年度研究計画に沿って、1,ラット脳硬膜静脈洞を試料としてエンドセリン(ET)-1とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の局在に関する免疫電顕を施行し、両ペプチドが同血管内皮細胞の粗面小胞体(rER)・ゴルジ装置系で生合成され、その一部が同一のWeibel-Palade(WP)小体に貯蔵されることを確認した。2,ラット急性低酸素モデルの上記血管内皮細胞においてWP小体の増加と細胞外放出像が高頻度に観察され、また、免疫電顕所見から、両ペプチドのrERでの産生の亢進が示唆されたことと、WP小体の挙動に連動した両ペプチドの細胞外放出像が示された。3,ETの受容体には、主に血管平滑筋細胞に分布し、血管収縮に介在するET_A受容体と、主に内皮細胞に分布し、血管拡張に介在するET_B受容体が存在する。両受容体に対する抗体を用いた免疫細胞化学をラット脳硬膜静脈洞で展開し、血管内皮形質膜にET_B受容体が、血管平滑筋細胞膜にET_A受容体が局在することが確認された。したがって、WP小体から放出されたET-1は内皮細胞に作用し、ET_B受容体を介する血管拡張作用と、平滑筋細胞に作用し、ET_A受容体を介する血管収縮作用を誘発するという二種の作用のバランスによる血流調節機構の存在が示された。4,ラット頸動脈小体血管系においても両ペプチドの産生・貯蔵・放出機序にWP小体が重要な意義を有することを免疫電顕により証明した。しかし、脳硬膜静脈洞と異なり、ET受容体は頸動脈小体内の動脈系内皮細胞にET_B受容体が分布するが、血管平滑筋細胞にはET_A受容体がほとんど分布していないことから、WP小体から放出されるET-1は頸動脈小体内では主に血管拡張作用による血流保持に働くことが推察された。5,ラット急性低酸素モデルでは両血管ともにET受容体の局在性については対照群と比べて有意差がみられず、低酸素状態では内皮細胞でのET-1の産生・放出の亢進が血行動態に重要な影響を与えていることが示唆された。
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