血管内皮細胞は種々の血管作動性ペプチドを産生・放出し、局所血流調節機構に関与している。我々はエンドセリン(ET)-1、ET受容体およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の免疫局在の検索から、両ペプチドの血管内皮細胞での産生・貯蔵・放出機序と、放出されたET-1のvasomotionの検索を行うべく、以下の研究を展開した。1.ラット脳硬膜静脈洞および頸動脈小体血管系の内皮細胞において、両ペプチドは粗面小胞体・ゴルジ装置系で生合成されたのち、一部は同一のWeibel-Palade(WP)小体に貯蔵されることを明らかとした。2.WP小体の脱顆粒剤であるcompound48/80を作用させたところ、両ペプチドともWP小体の脱顆粒や開口分泌に連動して細胞外に放出されることが免疫電顕で示された。3.WP小体数の一過性の増加と細胞外放出の亢進をもたらすラット急性低酸素モデルにおいて、両血管系内皮細胞とも両ペプチドの産生およびWP小体を介した細胞外放出が亢進することが証明された。4.ET受容体には血管収縮を仲介するET_A受容体と、血管拡張を仲介するET_B受容体が存在することは周知である。両受容体の免疫細胞化学的局在の検索により、ラット脳硬膜静脈洞では血管内皮細胞膜にET_B受容体が、中膜平滑筋形質膜にET_A受容体がそれぞれ分布し、両作用のバランスによってET-1は静脈洞内血流の内頸静脈への還流を調節することが示唆された。一方、頸動脈小体内血管系では内皮にET_B受容体が分布するが、ET_Aの分布はほとんどみられず、頸動脈小体内ではET-1は主にその血管拡張作用により血流保持に働くことが推察される。5.CGRPに関しては未だ受容体の同定がなされていないが、強力な血管拡張性ペプチドであることから、両血管系ともにCGRPは血管拡張に関与すると考えられる。WP小体からET-1とCGRPが個別に放出されるか同時に放出されるかの解析は血行動態の把握に必要であり、今後とも検索を続けたい。
|