1.今回no補助金により購入したプログラマブル分光ユニットを用い、単離心筋細胞を対象とした多波長顕微分光システムを構築した。新しく考案したデータ処理アルゴリズムにより、細胞内光吸収量の絶対値を2次元画像として得ることができた。この結果、単一細胞で、ミトコンドリアの大きさに匹敵する極めて高い空間分解能(<1μm)をもった分光計測が可能であることを示した。 2.上記システムを用い、単一心筋細胞の光吸収スペクトラムを波長400nm〜500nmで測定した。酸素化および脱酸素化した細胞の光吸収ピークは、それぞれ416nmおよび432nmであり、すでに知られている精製ミオグロビンの吸収ピーク(γ帯)とほぼ一致した。 3.上記システムでミオグロビンのγ帯に相当する波長を用い、一個の心筋細胞の平均細胞内酸素分圧が測定可能なことを示した。さらにこの結果を利用し、細胞内外の酸素分圧勾配を定量したところ、静止単一心筋細胞で約2Torrの酸素分圧勾配が観測された。また、この酸素分圧勾配は低酸素となるに伴い減少することを見いだした。この結果を、虚血および低酸素に対する細胞内酸素輸送の適応現象のひとつと解釈した。 4.ミオグロビンのγ帯に相当する波長で、単一心筋細胞内に光吸収の不均一性が存在することを、再現性よく画像化できた。これをミトコンドリアの酸素消費に起因する細胞内部の酸素分圧分布の不均一性を反映するものと考えている。現在ミトコンドリアの細胞内所在の分光学的同定を行っており、ミトコンドリアの局在と光吸収(すなわち酸素分圧)の不均一性の関係を検討している。
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