1.ミトコンドリアの酸素消費の結果生じると考えられている細胞内酸素分布の不均一性を可視化するために、昨年度までに構築した高解像度多波長顕微分光システムの使用波長を最適化した。その結果、ミオグロビンのγ帯に相当する410nm、420nm、445nmの3波長を用いることで、単一分離心筋細胞内のミトコンドリアの局在を明瞭に画像化するとともに、細胞質ミオグロビンの酸素化度を定量できることを示した。 2.1で述べたシステムを用い、細胞外酸素分圧と細胞内酸素分圧の関係を調べた。対照細胞では、細胞外酸素分圧を約7Torrまで低下させると、細胞質ミオグロビンの脱酸素化が観察された。一方、単離心筋細胞の酸素消費量を脱共役剤を用い約2倍に増加させた場合、ミオグロビンのP_<50>値(2〜5 Torr)に比べ顕著に高い細胞外酸素分圧(約28 Torr)ですでにミオグロビンの脱酸素化がおこることがわかった。これらの結果は、細胞内外の酸素拡散抵抗がミトコンドリアへの酸素供給を規定する重要の因子であることを示唆する。 3.酸素消費量増加に伴う細胞内脱酸素化が、細胞内に形成される酸素分圧勾配の増加によるものかどうかを検討するために、細胞内酸素分布の高解像度画像化をおこなった。2に述べた条件下で、特にミトコンドリア近傍に大きな酸素分圧の不均一性(酸素分圧勾配)が生じることを示した。現在、細胞内に形成される酸素分圧勾配の絶対値およびその細胞外酸素分圧への依存性を検討中である。
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