1.ニューロンに存在する細胞内エネルギーレベルにきわめて敏感なKチャネル(ATP感受性Kチャネル)の役割を解明するために、脳虚血によるシナプス伝達の低下におけるこのチャネルの関与を調べた。 2.新生仔ラットの培養海馬ニューロンを用いて以下の結果を得た。 (1)虚血によるシナプス伝達の抑制は、興奮性シナプスに比べ、抑制性シナプスにおいてより顕著であった。したがって、脳切片で観察される興奮性シナプス伝達の早期抑制は、すでに指摘されているように、回りの細胞から放出されたアデノシンなどの物質によるシナプス前抑制の機構によると考えられる。 (2)ATP感受性Kチャネル阻害剤は、虚血によるシナプス伝達の低下を防ぐことができなかった。したがって、シナプス伝達の低下が、ATP感受性Kチャネルの活性化によるものではないと考えられる。 (3)虚血からの回復時に、シナプス伝達がATP感受性Kチャネル阻害剤の添加により抑制されることが、数例のニューロン・ペアにおいて観察された。この結果は、ATP感受性Kチャネルの活性化が、シナプス伝達の回復に一部役立っている可能性を示唆する。 3.以上のように、本年度は、虚血によるシナプス伝達の低下が、興奮性シナプスと抑制性シナプスとで異なること、また、その過程にATP感受性Kチャネルは主たる関与はしていないが、虚血後の回復過程に一部関与している可能性のあることが明らかとなった。また、研究遂行中に、虚血によるシナプス伝達の抑制にアデノシンのみならずグルタミン酸によるシナプス前抑制の機構が関与している可能性も考えられたため、当初の予定にはなかったが、興奮性および抑制性シナプス伝達が終末部の代謝型グルタミン酸受容体を介してどのように調節されているのかを調べた(Brain Res.705(1995)337-340)。また、虚血による終末部のKコンダクタンスの変化を推測するために、終末部に存在するKチャネルの種類を調べる基礎実験も行った(Neurosci. Lett.印刷中)。
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