脳虚血による神経活動変化はどのようにして起こるのか、また、その過程にATP感受性Kチャネルが関与するのかどうかを、新生仔ラットの培養海馬ニューロンを用いて検討し、以下の結論を得た。 1.虚血によるシナプス伝達は抑制されるが、興奮性シナプス伝達に比べ、抑制性シナプス伝達の方がより虚血に弱いことが判った。 2.ATP感受性Kチャネルは、虚血後の回復過程には一部関与するが、虚血によるシナプス伝達の低下そのものには関与していないことが示唆された。 3.虚血時に細胞内Caの増加が起こるが、虚血時のシナプス伝達の抑制にシナプス前終末のCa依存性Kチャネルは関与していないと思われた(Neurosci. Lett. 207 : 195-198)。 4.グルタミン酸はシナプス前終末の代謝型グルタミン酸受容体に働き、興奮性シナプス伝達や抑制性シナプス伝達を調節する作用のあることが判明した(Brain Res. 705 : 337-340)。したがって、虚血時に見られる細部外グルタミン酸濃度の上昇が、その後のシナプス伝達の変化をもたらす可能性は高いと思われた。 5.シナプス後ニューロンの強い脱分極は、逆行性伝達物質を介して、そのニューロンへの抑制性入力を抑制することが示された(論文投稿中)。したがって、虚血時に見られるニューロンの脱分極が、その後の抑制性シナプス伝達の抑制に関与する可能性は高いと思われた。 今後は、脳虚血により引き起こされるさまざまな神経活動の変化に、どの機構がどの程度関与するのかを明らかにして行きたい。
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