研究概要 |
肺小動静脈(100-1000μm diam.)の口径応答をin vivoで直接計測することで、急性及び慢性肺高血圧発生時の内因性一酸化窒素(NO)の肺血管トーン調節上の意義を調べた。前者を調べるために、低酸素ガス(5% O_2)急性負荷時の口径応答を、NO合成阻害剤(L-NAME)投与群とU-46119(thromboxaneA_2 mimic)投与群(control群)で比較した。U46619はL-NAME投与時と同程度の肺血管収縮を起こすために用いた。L-NAME投与下での低酸素負荷は、100-700μmの動静脈に各々13-33及び10-14%収縮を起こした。他方、U-46619投与下の低酸素負荷でも、同サイズの動静脈に各々9-23及び5-8%収縮が生じたが、この応答はL-NAME投与下より有意に小さかった。この結果は、NO合成阻害時、急性低酸素性肺血管収縮(HPV)が増大することを示しており、内因性NOのHPVへの抑制的作用を示唆する。 6週齢のSDラットにモノクロタリン(MC;60mg/kg)または生理的食塩水を皮下注射し、投与後3-21日の間でのNO合成阻害剤(L-NMMA)の効果を比較した。投与後3-10日で、MC群では生食群より有意に強い動脈(100-800μm diam.)の口径収縮が生じたが、11-21日でこの有意差は消失した。この結果は、MCによる肺高血圧形成過程の早期で、内因性NOが動脈の収縮応答に抑制的に働くことを示唆した。さらに、同種のラットを室内気または低酸素(10% O_2)に暴露し、1,2及び3週目でのNO合成阻害剤の効果を比較した。L-NMMA(構成型及び誘導型NO合成酵素の両方を阻害する)は、1,2週目では両群に同程度の動脈収縮を起こしたが、3週目では低酸素群の100-300μmの動脈により強い収縮を起こした。他方、L-canavanine(選択的誘導型NO合成酵素阻害剤)は、低酸素群の2,3週目にのみ収縮を起こし、その収縮は特に100-300μmの動脈で強かった。以上の結果は、慢性低酸素性肺高血圧の形成過程の2-3週目で、特に誘導型NO合成酵素の活性化により産生されたNOが、より小さい100-300μmの動脈の収縮応答に対し抑制的に働くことを示唆した。
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