研究概要 |
微小神経電図法により記録された皮膚支配の交感神経活動,皮膚交感神経活動(SSNA)は,発汗神経活動成分(VC)と血管収縮神経活動成分(SM)を含む.環境温がこの2つの活動成分の変化に与える影響を,健常成人および発汗異常者においてSSNAの同時記録法により明らかにすることを目的とした.この目的を遂行するため,従来は効果器により判定(SMは換気カプセル法にて,VCはレーザードプラー法にて)していたSSNAのSMとVCの同定をスパイクレベルで行い,コンピュータによる自動解析を試みた. その結果,スパイクマッチング法を用いてスパイクレベルにおいてSSNA中のSMスパイク,VCスパイクが同定可能となった.さらに同法を利用して環境温を下降させた場合と,局所皮膚冷却を負荷した場合を両神経において比較したところ,両神経ともに前者においてはVCと正の相関を示した鼓膜温(核温)は,後者においては負の相関を示した.また,腓骨神経においては低下したSMが,脛骨神経においては増加した.このことは,環境温低下時に,一般体表面では核温の低下を防ぐためにVCが賦活化され,皮膚血流量が低下するが,局所冷却時には逆に断熱効果が働き深部温を上昇させる一方で,無毛部において発汗および皮膚血管収縮のため,皮膚温の急激な低下が起こることを意味する.このように冷却方法によってもSMおよびVCに地域差があることが示された.さらに手掌足底多汗症患者において,精神的ストレスや温熱環境に対する反応を検索したところ,無毛部支配のSSNAにSM・VCともに,より多くの交感神経出力が流出していることが確認された. これらの結果は,環境温および精神的ストレスが,ヒトの体温調節に及ぼす影響を探索する上において,重要な所見となることを示唆するものと思われる.
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