運動、特に有酸素運動は、脂肪代謝を亢進し高脂血症、肥満の治療・予防に有効である。しかし、運動が血漿脂質を低下させ体脂肪を減らす詳しい機構は不明である。運動による体脂肪の減少は、単に運動による消費エネルギーの増加のみでは説明できない。興味深い仮説として、運動はこの中枢神経性体重調節系のセットポイントをリセッテングし、単に運動中だけでなく長期にエネルギー代謝に影響している可能性が示されてきた。助成期間中に以下の3つ視点から研究を遂行した。 第1に、Wistar系ラットを用い1時間のトレッドミル運動を行わせた。動脈圧はトレッドミル運動により増加するが、運動後一過性の有意な低下を示した。呼吸商は運動後、対照群と比べ有意な低下を示した。腎交感神経活動は運動により上昇したが、運動後に対照期より低いレベルで安定した値を示した。腎交感神経活動と呼吸商は、運動後2時間以上低レベルを維持し、類似した時間変化を示した。以上より、運動後の腎交感神経活動の低下と脂質利用促進との間に強い因果関係が示唆された。 第2に、運動によるエネルギー源(グルコース)の枯渇が、エネルギー産生に用いられる糖・脂肪の利用比率と交感神経にどのような影響を及ぼすか検討した。エネルギー消費に関する調節系の検討を行った。グルコース代謝の阻害剤を投与した結果、腎交感神経の低下および脂質代謝の亢進が観察された。この結果より交感神経活動が糖・脂肪の利用比率を調節している可能性が示唆された。 第3に、運動によって脳内に分泌されるオピオイドである可能性に注目し、脳室内にラットベータエンドルフィンを1nmolおよび0.5nmol投与した。結果、腎交感神経活動は約70%投与後10-100分間有意に上昇した。動脈圧および心拍数も腎交感神経活動と同様に上昇が見られた。酸素消費量は、ベータエンドルフィン投与により約25%上昇した。酸素消費量の時間経過は腎交感神経活動の時間経過と同様のパターンを示した。以上より、脳内ベータエンドルフィンは代謝および交感神経活動と亢進させる事が明らかとなった。
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