研究概要 |
慢性脊髄動物の生存確率は血圧及び体温の低下に依存する。本研究は脊髄切断後の血圧及び末梢血流調節の回復過程での交感神経系の関与を検討した。脊髄切断によって交感神経性の血管収縮神経の直接支配から離脱し,血管の中間状態を維持できるので尾部血管の支配機序を研究するのに好都合である。以下本研究で得られた知見を示す。A.脊髄切断前に120mmHg前後あった血圧が脊髄切断後1日以降は80〜100mmHgのレベルを維持した。脊髄切断2週目において心拍及び血圧の回復の傾向が認められた。しかしOsbornらの報告に様に脊髄切断前の値まで回復することはなかった。B.血漿ノルアドレナリンの濃度は脊髄切断によって著明に低下したが脊髄切断後1週目26±22pg/ml(N=6;5.5±0.7days)よりも2週目,89±23pg/ml(N=8,10.9±0.7days)において有意(p<0.05)に高かった。一方、血漿アドレナリン脊髄切断後1週目565±332pg/ml,2週目274±136pg/mlとかなりの濃度が認められた。C.アドレナリンβ-アゴニストのisoproterenol 0.1mg/kg腹腔内投与で心拍数は顕著に増大したが尾部皮膚温の低下すなわち尾部血管の収縮が観察された。D.アドレナリンβ-遮断剤のpropranololの8mg/kgの腹腔内投与によって顕著な心拍数の減少と同時に尾部血管は収縮した。このときわずかな血圧の上昇が観察された。アドレナリンβ-受容器がブロックされたので血中のα-受容器を介するする作用が補償的に強調された考えられる。E.脊髄切断数時間後に心拍数の増加及び体温の上昇が観察された。一般に行われているラットの慢性脊髄ラット作成法(C_7のTh_1の脊椎骨の間で切断)では脊髄神経Th_1が残存し,これが脊髄切断時に作用して心循環系及び体温に対する影響を考えるとき数時間のスパンの及び数週間における回復過程と分離して検討する必要があることが判明した。これらの慢性脊髄ラットの研究からラット尾部血管は神経性の支配のほかに種々の血液中の液性の要因による影響をうけていることが示唆される。
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