研究概要 |
適度な運動負荷は骨格筋の肥大を引き起こす.従来,筋の肥大は形態学的には筋線維が太くなることによって説明されてきた.なぜならば筋線維数は生誕後まもなく決定され,それ以降変化しないと信じられてきたからである.線維数増加の有無については激しい論争が展開されてきたにもかかわらず,線維数が数千万単位という数であるがための計数誤差については何ら議論されたことはない.本研究では正確な線維数の計数が1つの目的でもあったのでまず線維の走行が単純な縫工筋をサンプルとして選んだ.細長い縫工筋を起始部より終末部にかけて3-5mmずつのブロックとして,各部位における総線維数を計数した.計数方法は硝酸処理して実体顕微鏡下で計数する方法とパラフィン切片を作製し染色後,システム生物顕微鏡(平成7年度科研費購入,オリンパス社製,BX-50)下で写真をとり,横断面の線維数を求める方法の2つを同時に実施した. 実験では離乳直後の雌ラットを用いて,自然自発回転ケージ内で長期間自然運動を行わせたが,運動量は平均10km/dayにも達した.縫工筋重量は自然運動を行わせても著名に増加し,筋肥大が起こった.対照群と運動群の縫工筋線維数の計数が硝酸処理法とパラフィン法により実施されたが,対照筋ではいずれの方法でもほぼ同一の結果がえられた.しかし,運動筋においてはパラフィン法で計数された線維数の方が硝酸法のそれを5-10%ほど上回った.その増加は特に筋腹中央部で極細線維が出現することによるが,この極細線維は硝酸処理法では検出されなかった.パラフィン法でえられた総線維数の計数により,筋線維数は運動により増加するが,その増加は筋腹中央部で現れ,増加した線維は極細線維を多く含むことが明らかにされた.
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