褐色脂肪組織(BAT)は耐寒性の亢進に重要な役割を果たす非ふるえ熱産生(NST)の主要発現部位である。BATの熱産生機能主な促進因子は交感神経のノルアドレナリン(NA)と膵ホルモンのグルカゴンであることが示されているが、この組織の機能抑制因子については未だ不明である。本研究では、BATの機能抑制因子としてのプロラクチン(PRL)の可能性をラットで検討し以下の結果が得られた。(1)血漿PRLレベルは寒冷曝露1時間、及び1日では低下していたが、関連馴化後には元のレベルに戻っていた。(2)NAは、生理食塩水注射による血漿PRLの上昇を抑制した。(3)反復拘束ストレスラットでは、対照ラットで起こる拘束ストレス時の血漿プロラクチンレベルの上昇が見られなかった。(4)意外にも、NST能が高いことが示されている遺伝的耐暑性FOKラットは他系群のラットに比べ、安静時の血漿プロラクチンレベルが有意に低かった。(5)高PRL血漿を起こすハロペリドール投与では、BATに対するグルカゴンの熱産生作用を選択的に抑制した。(6)低PRL血漿を起こすブロモクリプチン投与では、逆にグルカゴンの作用のみが上昇した。これらの結果はプロラクチンが褐色脂肪組織の熱産生機能を抑制することを強く示唆している。(7)しかし、現在までの処、褐色脂肪組織でのプロラクチンリセプター発現mRNAの検出には成功して居らず、(8)更に、ドーパミン投与は、ブロモクリプチンと同様の効果を起こすところから、プロラクチンが直接褐色脂肪組織に作用しているかどうかについては不詳である。プロラクチンリセプターのサブタイプに対するそれぞれの発現mRNAの検出及びPCRによりmRNAの増幅を図る等、更に検討を加える必要がある。
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