研究概要 |
ATPは細胞内エネルギー代謝の重要なメンバーであることに加え、最近は細胞間情報伝達物質として、ほとんど全ての細胞上に存在するATP(P2)受容体を介して広汎な生理機能を発揮していることが明らかにされつつある。報告者は種々の平滑筋組織から、noradrenaline、AChなどの神経伝達物質の受容体刺激によってATPが非神経性に放出され、この放出が主に平滑筋細胞に由来することを示唆してきた。本研究では放出されるATPのsourceを明らかにし、併せて、このATP放出に関与する細胞内シグナル伝達機構を明確にする。 平成7年度は、当初平滑筋単離細胞を使用する計画であったが、実際には回腸縦走筋などより初代培養細胞を作成し、その細胞を集めて灌流実験を行い放出されたATPをルシフェラーゼ法によって測定した。その結果、α,β-methylene ATP(α,β-mATP)やbethanechol、さらにangiotensin IIなどのpeptide類によって効果的なATP放出が引き起こされた。これは、各受容体遮断薬で拮抗されたことより、放出ATPのoriginが平滑筋細胞であることが確認された。 平成8年度は回腸平滑筋segmentを用いてα,β-mATPによるATP放出とそのホモジネート中のイノシトール三リン酸(IP3)生成の相関について検討を行った。実験はIP3測定キット(TPK-1000)を用いラジオレセプターアッセイ法にて測定された。その結果、ATPの放出は百日咳毒素に非感受性であり、phospholipaseC活性、およびIP3生成を阻害するneomycin、spermine、LiClなどにより著しく抑制された。回腸ホモジネートでのIP3生成はα,β-mATPにより促進され、LiClにより拮抗された。このことより、P2-アゴニストによるATP放出は細胞内IP3生成と強く相関していることが初めて明らかにされた。
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