研究概要 |
本研究では、ニワトリにおける抗体H鎖定常部遺伝子群の全構成を分子生物学的手法によって解明し、H鎖定常部遺伝子群の発現制御機構を進化学的考察も含めて明らかにし、総合的理解を深めることを目指した。将来遺伝子の組換えや繰り返し配列の解析を行うことを念頭に、その障害となりうる、個体差(遺伝的多型)を排除するため、ニワトリにおける数少ない近交系のひとつであるV系統(H-B15)のラムダファージ遺伝子ライブラリーを作製した。このライブラリーから、H鎖遺伝子J領域からμ鎖定常部までをカバーするクローン群ならびにα鎖定常部を含むクローンを複数単離することができた。ニワトリでは、J領域からμ鎖定常部までの距離および定常部位の各エキソン間の距離がマウス,ヒトに比べ大きいことが判明した。ニワトリのゲノムサイズは哺乳類に比べおよそ1/3と小さく、ニワトリ遺伝子のイントロンが一般に哺乳類のそれに比して短いことを考慮すると、この結果はニワトリとマウス、ヒトの哺乳類では免疫グロブリン遺伝子の発現機構が異なっている可能性を示唆しており、進化上の問題として興味深い。上のクローンを用いて、マウスのS領域(SμとSα)プローブとのクロスハイブリダイゼイションを行った結果、J領域からμ鎖定常部までの範囲に、マウスのSμ、Sα領域と弱くではあるが相同性のある配列があることがわかった。このことから、ニワトリにもクラススイッチを制御するS領域が存在することが予想される。ただしその相同性は、マウスのS領域同士(SμとSα)間の相同性と比較して有意に低いことが信号の強度から判明した。実際のクラススイッチの際、この領域がどのように働いているかについて議論するには、この領域の塩基配列の詳しい解析や他のアイソタイプについての同様の解析が必要である。
|