研究概要 |
グリシン開裂酵素系の分子構造と機能に関して以下の研究成果を得た. 1.組換発現・精製した大腸菌T蛋白質とH蛋白質の複合体を1-ethyl-3-(3-dimethyl aminopropyl)carbodiimide(EDC,距離ゼロのNH_2基とCOOH基間の架橋剤)で架橋してET:EH=1:1の架橋体を得た.これをlysylendopeptidase処理し,HPLCで分解するとET-EH間の架橋に加えてETのN末端と中央部分のlysylpeptide間の架橋ピークが得られた.このET分子内架橋はEH依存性,methylenetetrahydrofolate(CH_2-THF)非依存性であった.H蛋白質に対する親和性の低下が著しいN末7残基欠失ET(ETΔ7)とEH間でも架橋が形成されたが,ETΔ7分子内架橋は認められなかった.これらの結果はETのN末端が機能発現に必要な高次構造形成に重要な役割を果たしていることを示唆する. 2.CH_2THFに^<14>C-glutamateを酵素的に取り込ませて,生理的基質であるmethyleneterahydropteroyltetraglutamate(CH_2-H_4PteGlu_4)を合成しETとEDCで架橋した.得られた架橋体はET:CH_2-H_4PteGlu_4=1:0.9で,そのlysylpeptideを分析してET(全長363残基)の78番目,81番目およぴ352番日のリジン残基がCH_2-H_4PteGlu_4のglutamate tailとの結合に預かっていることを明らかにした. 3.2で同定された葉酸結合部位のうち352番目のリジン残基はこれまでに一次構造が明らかになっている7種の動物,植物および細菌のT蛋白質で共通して保存されているので,グルタミン酸,グルタミン,アルギニンに点変異させ,発現・精製して活性に与える影響を検討した.結果は3変異体とも比活性,CH_2-H_4PteGlu_4に対するKm値においてwild-typeと大きな差異が認められなかった.現在78番目と81番目のリジン残基に点変異を導入して活性を検討している. 4.正常型およぴ非ケトーシス型高グリシン血症患者で同定された変異型ヒトT蛋白質の大腸菌中での発現に着手した.
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