アナンダミドは内因性のカンナビノイド受容体アゴニストとして発見され、その構造はアラキドン酸のエタノールアミドと同定されている。アナンダミドは何らかの細胞刺激によって生成し、作用後すみやかに遊離アラキドン酸とエタノールアミンに加水分解されて不活化されるものと考えられているが、アナンダミドの代謝に関与する酵素の性質については不明な点が多い。本研究では、アナンダミドを加水分解する酵素をブタ脳から単離精製し、その性質を明らかにすることを試みた。ブタ脳のミクロソーム画分を1%Triton X-100で処理して得られた可溶化蛋白を、Phenyl-5PW疎水性クロマトグラフィーで分離することにより、加水分解酵素を約20倍に部分精製した(比活性:0.37μmol/min/mg蛋白)。この酵素標品は、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸のエタノールアミドよりもアナンダミドと高い反応性を示した。既知のアミド加水分解酵素であるセラミダーゼやプロテアーゼの活性は、この酵素標品では検出されなかった。また、高濃度のエタノールアミン存在下では、逆にアラキドン酸とエタノールアミンの脱水縮合反応により、アナンダミドが生成した。クロマトグラフィー上での挙動、pH依存性、熱失活曲線、種々の阻害剤(アラキドニルトリフルオロメチルケトン、p-クロロメルクリ安息香酸、フルオロリン酸ジイソプロピル、フッ化フェニルメチルスルフォニル)の効果に基づいて、部分精製標品中のアナンダミド加水分解酵素活性とアナンダミド合成酵素活性は同一酵素蛋白に由来することが示唆された。
|