研究概要 |
細胞表面の糖鎖は細胞分化に応じて劇的に変化することが知られている。この過程での糖鎖の機能を明らかにすることを目的とし、糖転移酵素特にシアル酸転移酵素に注目し研究を行っている。本研究では特定の糖転移酵素遺伝子を細胞に強制発現させ細胞内の糖鎖合成経路を改変し、その結果として、細胞表面の糖鎖の発現パターンが変化した場合、細胞がどのように応答するかを明らかにすることを目的とした。昨年b-シリーズガングリオシド合成に必須なGD3合成酵素をクローニングした。本酵素遺伝子を神経芽腫瘍細胞Neuro2aに導入したところ、その結果としてそれまでには発現していなかったGD3およびb-シリーズガングリオシドが細胞に新たに発現するようになった。このような細胞では神経突起の伸長が著しく増強され、最終的に腫瘍細胞からより正常細胞に近い性質を獲得する方向へ分化することを見いだした。そこで同様の現像が他の糖転移酵素遺伝子を導入した場合でも観察されるかどうかを検討した。その結果α1,2-フコース転移酵素遺伝子をNeuro2a細胞に導入した場合アクソンの著しい伸長阻害を見いだした。このときガングリオシドは親株には存在しないフコシルGM1が主成分となっていた。一方、フコシルGM1を合成しないα1,2-フコース転移酵素遺伝子を細胞に導入してもアクソンの伸長阻害は見られなかった。これらの結果は細胞表面の糖鎖の発現が神経細胞の突起伸長や分化といった現象に直接関連していることを物語っている。 一方、神経系に特異的に発現しているシアル酸転移酵素を更に3種クローニングした。3種ともα2,8-シアル酸転移酵素であることが明らかになった。またこのうち2つは神経細胞接着分子(N-CAM)のポリシアル酸合成に関与するポリシアル酸合成酵素であることを明らかにした。
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