白内障は水晶体が混濁化し、透明性を失った状態である。その原因は、タンパク質分子間で起こる架橋反応等で不溶性の高分子会合体が形成されるためと一般的には考えられている。しかし一方では、水晶体タンパク質の分解が混濁化(タンパク質の不溶化)の引き金になるとの見方もある。事実、老人性の白内障や種々の実験的白内障では水晶体タンパク質の分解の亢進が認められている。そこで本研究では遺伝性白内障ラット(SCR)を用い、水晶体タンパク質の分解に関与するプロテアーゼの検索並びにタンパク質分解とタンパク質不溶化との関連性を解析した。 水晶体タンパク質の分解パターンや水晶体カルシウム濃度の変動等から、水晶体混濁過程で亢進するタンパク質分解にはカルシウム依存性プロテアーゼであるカルパインの関与が強く示唆された。そこで、カルパインの関与をより直接的に証明するためにカルパインによる分解産物(切断部位)のみを認識する特異抗体を作製し、解析を行った。その結果、少なくともα-クリスタリン(A及びB鎖)、βB1-クリスタリン並びに細胞骨格タンパク質であるフォドリンの分解にカルパインが関与することが確認された。これらのタンパク質の分解産物は、水晶体が混濁を発現するよりもかなり早い時期から検出され、経時的に増加することも明らかとなった。また、本来は可溶性であるβB1-クリスタリンがカルパインによる切断で不溶性に変化するが明らかとなった。これらの結果から、カルパインが白内障発症過程(タンパク質不溶化)で重要な役割を担っていることが強く示唆された。
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