細胞増殖、転移におけるリゾホスファチジン酸(LysoPA)の役割を解明するため、まず不飽和脂肪酸オレオイル基を持つLysoPAに対するモノクローナル抗体を作製した。この抗体は非常に特異的でホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、他のリゾ体などとの交叉性はなかった。この抗体を用いて転移の重要なファクターであると思われる血清中のLysoPA量を測定したところ、3〜10μMのLysoPAが検出された。in vivoでは2〜10μMPAが細胞増殖を引き起こすことが報告されていることから、生理的にもLysoPAは何らかの役割を担うことが予想された。すなわち、血小板等で産出されたLysoPAは血中に放出され、オートクライン機構により標的細胞の増殖を引き起こしたり、血管内皮細胞に作用して血管の収縮に関与していることが示唆される。 さらにLysoPAの細胞内情報伝達機構を解明するため、NIH3T3細胞をLysoPAで処理したときの細胞内の変化を検討したところ、LysoPA処理によりFAK、パキシリン、テンシンがチロシンリン酸化されることが判明した。チロシンリン酸化をもたらすチロシンキナーゼはまだわかっていないが、LysoPAによる細胞骨格系の変化がこれらの蛋白質のチロシンリン酸化を介すること、そして骨格系の変化が結果として転移しやすい細胞形態を導くと考えられた。
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