研究概要 |
ヒト血小板のインテグリンファミリーGPIIb/IIIa複合体は構造変化を引き起こすことによりリガンドと結合して凝集を引き起こすが、このシグナル系は種々のアゴニスト刺激により生ずるシグナルに依存し、両経路のシグナル連係により血小板凝集が完成することが示唆されているが、GPIIb/IIIaを介するシグナル連携について十分明らかでない。インテグリンの活性化によるシグナルは多くのシグナル因子の再構築された細胞骨格への移行により伝達される。そこでアゴニスト刺激による細胞骨格へのシグナル因子の移行をGPIIb/IIIa複合体に対する特異抗体やリガンド結合部位に対するアンタゴニスト(RGDS)を用いて検討した。 ヒト血小板をトロンビン刺激し、経時的にTX100不溶性の細胞骨格へのシグナル因子の移行を種々の抗体によるウエスタンブロッドにより検討したところ、トロンビン刺激によりPKC-α,PKC-βや低分子量G蛋白質Rho,Rac,Cdc42などが速やかに細胞骨格に移行することが確認された。また、ヒト血小板には4種のPI-PLCアイソザイム(PLC-β2,-β3a,-β3b,-γ1,-γ2)が存在することが各種抗体を用いて同定しており、これらPLCアイソザイムのトロンビン刺激による細胞骨格への移行を詳しく検討したところ、PLCアイソザイムは異なる機構で細胞骨格へ移行することを明らかにした。トロンビン刺激により、PLC-β3a(155kDa)とPLC-β3b(140kDa)は速やかに(15-30秒)細胞骨格に移行する。この移行はインテグリンGPIIIaに対する抗体やフィブリノーゲンアンタゴニストのRGDSペプチド前処理により完全に阻害され、インテグリン依存性の移行が見られた。一方、PLC-β2とPLC-γ2は緩やかな移行(2分まで)を示し、インテグリン非依存性であった。また、PLC-β3a(155kDa)とPLC-β3b(140kDa)はトロンビン刺激により活性化されるカルパインにより限定分解され100kDaになるが、この修飾は両者の細胞骨格の移行後引き起こされることが示めされた。以上の結果より、ヒト血小板ではPLC-β3がインテグリンシグナリングに関係した凝集になんらかの役割を果たしていることが示唆された。
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