糖利用阻害剤2DGをグルコースを必須のエネルギー源とする脳内に投与するとラットは血中のグルコース濃度を高めて脳へのエネルギーの供給を計る。この反応には膵臓、肝臓と副腎へ投射する交感神経の活動上昇、アドレナリンとグルカゴンの血中濃度の上昇、インスリン濃度の上昇抑制が介在する。視交叉上核(SCN)破壊動物や盲目動物では2DG脳内投与による高血糖反応が認められないことから網膜から神経連絡のあるSCNニューロンがこの反応に関与する可能性を検討した。その結果、2DGの脳内投与による交感神経活動上昇反応並びに高血糖反応は1) vasoactive intestinal peptide (VIP)及びVIP-アンタゴニストの脳内投与により、促進及び抑制されること、2) SCN破壊により消失するが、消失したこれらの反応は脳内へのVIPの注入より回復すること、などが認められた。更に、2DGによる高血糖反応はVIP mRNAに対するantisense oligodeoxy-nucleotideの注入によるSCNでのVIPの発現阻害によっても消失することが明かとなった。SCN付近にはSCN以外にVIP含有ニューロンが存在しないことを考えると、これらの事実はSCNのVIP含有ニューロンが2DGの脳内投与時の交感神経活動上昇反応と高血糖反応に重要な役割を果たすことを示す。その他にSCNにはarginine vasopressin (AVP)やsomatostatin (SS)を含むニューロンが存在するが、2DG脳内投与による交感神経活動上昇反応と高血糖反応はAVPの脳内投与により抑制され、AVP-アンダゴニストのそれにより促進されることも認めている。SSの脳内投与もAVPのそれと同様の作用を示すので、現在これらの機能がSCNのAVP及びSS含有ニューロンによるものか否かを、AVP及びSSの発現をantisense法にて阻害する実験により明かにすると共に、これらのSCNニューロンによる相反的自律神経制御機構を解明する実験を計画している。
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