(1)68kDaセリンプロテアーゼ(βセクレターゼ)に対する特異抗体の作成について 家族性アルツハイマー病細胞の無血清培養上清より精製した68kDaβセクレターゼを抗原として既に作成したポリクロナル抗体(adp-1)は58kDa蛋白(機能不明)と交差反応性を示す。このため本βセクレターゼのみを特異的に認識する抗体を得るため、本プロテアーゼの一部ドメインに対応するcDNAをプロテインA融合蛋白合成ベクターを用いてペプチド合成し、それを抗原としてポリクロナル抗体(adp-2)を作成した。 (2)68kDaセリンプロテアーゼ(βセクレターゼ)の分子内陰性荷電の生化学的解明 精製した68kDaβセクレターゼはadp-2抗体を用いたWestern解析から、2次元電気泳動上分子量68kDa、等電点4.7の単一スポットとして認識される。この標品をヘパリチナーゼあるいはグリコペプチダーゼで処理することにより、反応時間依存的に上記スポットの減弱と分子量51kDa、等電点9.2のスポットの発現増加を認めた。このことから、本プロテアーゼはその分子内にヘパラン硫酸を含むアスパラギン結合糖鎖を複合糖質としてもつ糖蛋白であることが解明された。 (3)68kDaβセクレターゼの脳における発現の解析 adp-2抗体を用いた免疫組織化学的解析から、本プロテアーゼは検索した2例の孤発性アルツハイマー病患者脳および正常老人脳の皮質に程度の差こそあれ発現しており、とくにミクログリアに集積が著名であった。このことは、本プロテアーゼの分子構造解析から推定される急性炎症蛋白としての特性からみて合理的である。 以上の成果を踏まえ、現在βアミロイド含有ペプチド(本プロテアーゼの直接基質である16kDaペプチド)の凝集、線維化におよぼす本プロテアーゼの複合糖質の機能の解析を行っている。最終的に脳の細胞外マトリックスにおける本プロテアーゼの機能の解明を目指す。
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