種々の陽性荷電リポソームの脂質組成、作製法をin vitroの系で比較検討したところ、脂質分子種としては八木らの開発したDOPE : DLPC : TMAG (2:2:1)の組成のもの、リポソームの大きさ、作製方法では最も簡単に作成できる多重層リポソームがもっともトランスフェクション効率が良く、再現性も良かった。また血清存在下で、リポソームを添加するのみという、細胞培養に好都合で、実験も簡単な方法で十分量の外来遺伝子の発現をみる系をつくることができた。レトロウイルスに特異的な遺伝子治療の試みとして、ウシ白血病ウイルス(BLV)感染細胞に、BLVのLTRの間にジフテリア毒素遺伝子を組み込んだ構築物を作製した。陽性荷電リポソームとの複合体で効率の良いトランスフェクションが可能がなことが示され、さらにこのプラスミドはBLV感染細胞で特異的に発現し、細胞を死にいたらしめることができた。なかなか有効な薬剤の登場しないレトロウイルス感染症の自殺遺伝子を用いる遺伝子治療の可能性を開くものである。これらの実験と平行してin vivo系でも、眼球におけるマーカー遺伝子の発現実験、腎臓組織内へのアンチセンスヌクレオチドの導入の実験をおこなった。眼球においては遺伝子と陽性リポソームの複合体を注入するすることでいろいろな眼球組織にマーカー遺伝子の発現が確認された。さらに点眼するという簡単な方法でも網膜を含む眼球組織に注射器での注入法と同等の遺伝子発現が認められた。種々の陽性荷電リポソームを比較検討した結果ではDOPE : DLPC : TMAGの組成のリポソームと遺伝子の複合体にもっとも活性の高いマーカー遺伝子の発現がみられた。また転写を抑制する活性をもつE2F decoyオリゴスヌクレオチドを腎臓に導入したところ抗Thy1.1抗体で惹起した実験腎炎の進展が抑制された。アンチセンス治療法やdecoyオリゴスヌクレオチド療法はその原理から、応用範囲の広い新しい治療法として注目を集めている。しかしながら通常の投与方法では効率が悪く、高い薬用量となり、まだまだ実用性に乏しい段階である。リポソーム法は簡単で、毒性も低くこれらの治療法の実用化に向けての実現性を高めるものである。
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