研究概要 |
昨年度に引き続き、アルコール摂取によって誘導されたチトクロームP450 2E1酵素による酸素欠乏性肝障害についての動物実験を行った。2週間のアルコール投与によってラット肝臓P450 2E1酵素の最大活性が誘導されることが明らかになっているので,飲料水の代わりに10%エタノールを与えたラットと普通の飲料水を与えた通常飼育ラットを用いて実験を行った。これらラットから心臓採血を行い,その血清を用いて肝障害のマーカーとして5つの酵素(GOT,GPT,γGTP,LDH,CPK)活性を測定した。アルコール投与群と通常飼育群の間に酵素活性の差は無かった。そこで,アドレナリンなどの血管収縮性モルモンの分泌を引き起こすストレスによって肝臓における酸素欠乏がより増強されると考え、アルコール摂取によるP450 2E1酵素誘導の肝細胞に与える影響を知るためのストレス実験を行った。最初に水浸拘束ストレスをラットに与えたところ,ストレスが強ぎてアルコール摂取の有無と無関係に非常に高いGOT,GPT活性値を示したので,拘束ストレスのみを与える実験を行った。その結果,ストレス下でアルコール投与群と非投与群の間にGOT,GPT,GOT/GPR比に差は認められなかったが,アルコール性肝障害のマーカー酵素であるγGTPには有意の差が認められた。また,アルコール投与とは無関係にストレスを与えると,GOT,GPT,LDHの活性値が倍近く上昇した。肝臓を含めた組織の損傷を知るために調べたCPKの活性値に差は無かった。ストレスによって上昇した酵素活性値は1週間以内に正常値に戻った。以上の結果から,肝臓の酸素欠乏を招くストレスや長期のアルコール摂取は,一過性の肝細胞障害を経てアルコール性肝障害を引き起こす可能性が高いことが示唆された。
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