研究概要 |
禁酒状態と継続飲酒状態の健常人ボランティアで予め酵素型(ALDH2型,CYP2E1型)を調べてから飲酒実験を行った。空腹時に一定量のアルコールを飲ませて0、1、2、3、4時間後に採血し、血中エタノール、グリコース、ピルビン酸、乳酸濃度を測定し、各物質の血中濃度の変動を調べた。血中グルコース濃度は禁酒後飲酒実験で飲酒1時間後に一時的な低下が認められたが,継続飲酒後ではこの低下は抑えられていた。これは飲酒によるMEOSの誘導によって糖新生の阻害が抑えられたことを示していた。特に,誘導型であるCYP2E1c2型をもつ被験者でこの傾向が顕著であった。また,アルコール代謝時の還元状態の指標であるNADH/NAD比にも,禁酒後と継続飲酒後に大きな違いが現れていた。これらのことは飲酒によるMEOSの誘導活性化がアルコール代謝に大きな影響を与えていることを示していた。更に,MEOS活性化によって酸素消費が増大し,これによって酵素欠乏が主因の肝障害が発生するかどうかを,アルコール飲料によって飼育したラットを用いて調べた。短期間のアルコール飼育で肝障害を引き起こすのが困難であるために,ノルアドレナリンなどの血管収縮性ホルモンの分泌を引き起こすストレスをラットに与えることで酸素欠乏性肝障害の発症を調べた。ラットに拘束あるいは水浸拘束ストレスを与えた後採血を行い,その血清を用いて肝障害のマーカーとして5つの酵素(GOT,GPT,γGTP,LDH,CPK)活性を測定した。MEOSが誘導されたラットに拘束ストレスを与えた場合に,アルコール性肝障害のマーカー酵素であるγGTPに有意の差が現れた。以上の結果から,肝臓の酸素欠乏を招くストレスや長期のアルコール摂取は,一過性の肝細胞障害を経てアルコール性肝障害を引き起こす可能性が高いことが示唆された。
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