我々はこれまで、FasとFasリガンド(FasL)の遺伝子を単離し、これらがアポトーシスの信号を伝達する受容体とそのリガンドであること、免疫系のホメオスタシスに重要な働きをしていること等を示してきた。これらの成果をふまえ、本研究ではFas/FasL系の生理的、病理的意義を解明すること目的とし、以下の成果を得た。1.可溶性FasL、膜型FasLを高発現する形質転換細胞株、FasLに対するポリクローナル、及びモノクローナル抗体などを樹立した。2.in situhybridizationおよび免疫組織化学的手法を用い、Fasが脾臓やリンパ節の胚中心に強く発現していることを示した。また、LPSで活性化したB細胞が抗Fas抗体に感受性になることから、Fasが活性化B細胞の細胞死に関与している可能性を示唆した。3.抗Fas抗体を用いた実験から、Fas誘導アポトーシスに対して耐性と考えられてきた末梢T細胞が、実際にはFasLに対し感受性であることを示した。また、脾臓T細胞は、抗TCR抗体による刺激で、FasLに対する抵抗性を獲得することを示した。これらの結果は、FasLによる免疫系の調節機構を理解するうえで重要な発見である。4.ヒトFasLに対する高感度なサンドイッチELISA系を確立した。この系を用いて様々な患者血清中のFasLを定量した。その結果、LGL白血病やNKリンパ腫の患者血清中に多量のFasLが検出された。これらの患者は、しばしば低好中球血症や肝障害を併発するが、これらの合併症にFasLが関与している可能性が示唆された。5.マウスに可溶性ヒトFasLを投与したところ、大量(500μg)の経静脈投与で激しい肝障害を起こして全例死亡したが、毒性は予測より低かった。しかし、P.Acnes死菌でマウスを前処理することにより、感受性は約20倍に上昇した。
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