研究概要 |
申請者は新規向下垂体ホルモンとしてのPACAP(Pituitary adenylate cyclase activating polypeptide)が、心臓をはじめとする循環器系にも直接作用することに着目し、PACAPが循環調節因子として高血圧、心筋梗塞等の循環器疾患の病態生理にどのように関連するのかを解明することを本研究の目的として、以下の研究実績を挙げた。 分泌動態に関しては、確立したPACAP特異的RIAが、中点5fmol/tubeと高感度であり、SepPak抽出することにより、血中PACAP濃度を十分測定できることから、まずStreptozotocinによる実験的糖尿病ラットにおいてPACAPの分泌動態を検討した。投与4週目において、血中PACAP濃度はコントロール群と有意差を認めなかったが、血糖値の著しい上昇とともに、膵臓と視床下部でのPACAP免疫活性の有意な増加が認められ、PACAPの糖尿病の病態への関与が示唆された。 心血管系におけるPACAPの生合成の有無及び発現するPACAPレセプターの性状解析をRT-PCR法により検討した。その結果、PACAPmRNAは、心臓、大動脈、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞のいずれにおいても発現していた。心臓及び大動脈において3種のPACAP関連レセプター遺伝子(PACAPレセプター,VIPレセプターtype1及び2)はすべて発現していた。血管平滑筋細胞においては、VIPレセプターtype2のみの発現を認めた。VIP遺伝子が血管内皮細胞のみで発現していることに対し、PACAP遺伝子が内皮細胞のみならず平滑筋細胞においても発現していることから、PACAPは血管系において、パラクリン・オートクリンとして、より重要な生理的役割を有することが示唆された。 ラット血管平滑筋培養細胞(VSMC)に対するPACAPの作用を検討した。PACAP及びVIPともにVSMCのcAMP産生を容量依存性に増加させた。次にVSMCの細胞増殖に及ぼす効果を検討したところ、血清刺激時における細胞周期のGO期/GI期への移行には促進的に、後期GI期/S期の移行においては、抑制的に作用することを認めた。従ってPACAP及びVIPはVSMCの細胞増殖に対して、正と負のbidirectionalな情報伝達により、その細胞周期を巧妙に制御していることが示唆された。
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