研究概要 |
潰瘍性大腸炎(UC)の長期経過例には高率に癌が合併することから,UC合併癌(UC-Ca)の前癌病変としてdysplasia(異形成)が重要視され,炎症-異形成-癌といった発癌への一連のシーケンスも想定されている.しかしながら,肉眼形態的に異形成とUC-Caの鑑別は困難であり,病理組織学的には,異型上皮における炎症性・腫瘍性の鑑別,極高分化腺癌の診断がしばしば問題となる.そこで我々は,UC症例を対象に以下の検討を行い,UC-Ca診断における遺伝子工学的手法の有用性について検討した. 1)PCR-PFLP法によりK-rasの異常を検討したところ,癌ないし異形成でコドン12の変異が検出されたが,この頻度は一般大腸癌より低かった.2)P53ポリクローナル抗体(CM1)を用いてLSAB法を行い,diffuseないしintermediateの染色性を陽性とした.癌で100%,癌合併症例の異形成で約80%,炎症性異型上皮で約45%と,一般大腸癌に比し高率な陽性像を認めた.癌非合併UCにP53陽性例はみられなかった.3)DCCコドン201にはアルギニンとグリシンの多形性が存在する.PCR-RFLP法では,癌合併の有無に関わらずUC症例大腸組織の約80%にグリシンタイプがみられ,正常人抹消血を用いた対象17%と比して明らかに高率であった. 上記の結果から,サーベイランスの際に,生検組織のP53が陽性であれば癌の存在が疑われるものと考えられた.UCの発癌に際してP53とDCCが有用な遺伝子マーカーとなる可能性が強く示唆されたが,DCCコドン201多型性の関与については,RFLP法の問題点である再現性や検出感度を考慮し,自動シーケンサーによるDNA塩基配列の解析等,より詳細で精度の高い検討を加える必要があるものと思われた.
|