平成7年度は切除胃癌標本を用い、主としてin vivoにおけるアポトーシスの発現と意義を解析した。結果は以下のように要約される。 1)正常胃粘膜では極めて稀にアポトーシス細胞が見いだされた。腸上皮化生では腺底部でTUNELシグナル陽性のアポトーシス細胞が見いだされたが、分布密度は完全型よりも不完全型腸上皮化生腺管で高かった。腺腫30病変では多数のアポトーシス細胞が比較的、瀰慢性に分布していたが、軽度異型群より、高度異型群で分布密度が高かった。また、腺腫と癌腫が同時に存在していた15症例でアポトーシス細胞の比率を比較すると、前者では4.9±2.1、後者では3.9±1.1であり、前者で有意に高かった(P<0.05)。他方、増殖活性をKi-67陽性細胞は後者で比率が高かった。腺腫におけるアポトーシス発現の意義として、次の2点が示唆された;(1)腺腫ではDNA障害細胞に対を排除する機構が存在、(2)腺腫がより高い増殖活性を獲得するために不要な細胞を排除(投稿中)。 2)p53遺伝子変異を有する胃癌と野生型p53遺伝子を示す胃癌を各々15例抽出し、アポトーシス細胞の分布密度を検討した。p53遺伝子変異はPCR-SSCP法で確認した。アポトーシス細胞の分布密度は前者で4.9±1.2、後者では3.8±1.4であり、有意差があった(P<0.05)。他方、野生型p53遺伝子で誘導されるp21蛋白の発現に差はなかった。胃癌細胞におけるアポトーシスの一部はp53蛋白を介した細胞周期依存性である(投稿中)。 3)リンパ球浸潤を伴うEBウイルス関連胃癌を17例収集して、アポトーシス細胞を検討した。かかる胃癌では他のいかなる組織型の胃癌よりもアポトーシス細胞の分布密度が有意に低かった(P<0.05)。 4)in vitroの実験系を確立する目的で、ヒト胃癌培養細胞8株におけるFAS抗原、Bcl-2蛋白、ICE遺伝子について検討し、種々の程度に発現していることを確認した。
|