研究概要 |
ヒト悪性腫瘍の予後を決定する浸潤・転移に血液型関連糖鎖抗原の一つであるシアリル・ルイスX(SLX)抗原の発現が関与していることが我々を初めとした報告によって明らかになってきた。糖鎖抗原は幾つかの糖転移酵素の関与があって合成されるが、フコシルトランスフェラーゼ(FucT)は合成の最終段階に働くと考えられている。我々は、この酵素のcDNAを用いてそれぞれの酵素に特異的なDNAプローブをPCRを用いて合成した。このプローブを用いてパラフィン包埋ヒト成人型白血病(ATLL)浸潤切片並びに大腸癌組織切片に対してIn situ hybridizationを行い、FucTの発現を検討した。また併せて、モノクローナル抗体によりSLX抗原を染色し、その発現を比較検討した。 1 ATLLにおいては,FucT-VIIの発現が最も特徴的であった。大腸癌のSLX抗原合成に関与するFucTはいずれの型も発現していたが、特にFucT-VIIの発現が有意に高かった。また、 FucT-IVの発現もFucT-VIIと同様に有意に高かった。 2 抗体によって認識されるSLX抗原の発現と、FucT mRNAの発現は一致しないことが多い。 この原因として以下のような可能性が考えられる。 1)酵素のmRNAの発現は最終産物である糖鎖抗原の発現と一致しない。 2)癌化の過程で何らかの突然変異が起こることで一致しない。 3)未知のFucTが存在する。 今回の研究の問題点としては、プローベ合成に時間を要したため実施した症例数が限られている。 又,ATL症例ではmRNAの発現は腫瘍細胞に限局しているが,大腸癌での発現は腫瘍管腔内にも発現が見られるのでプローベの特異性の並びに染色法上の問題を今後検討し,解決する必要がある。
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