研究概要 |
平成7年度の研究実績 1)20例間質性肺炎、20例の気管支肺炎の肺組織の生検材料、剖検材料のホルマリン固定パラフィン切片を用いて、ISH法にて、EBVのEBER1の発現を検索したが、一部の間質性肺炎の症例で過形成性の末梢細気管支上皮に限局してEBER1陽性所見がみられた。また、一部の間質性肺炎の症例では間質に浸潤するリンパ球の少数にEBV-RNA陽性細胞をみた。 2)現在まで新たに30例の肺癌や1例の肺原発悪性リンパ腫の肺組織の手術材料、剖検材料のホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを用いてEBVのEBER1の発現を高感度In situ hybridization(ISH)法にて検索したが、EBER1陽性例はみられなかった。現在、更により多数の症例を検索予定である。 3)現在までに3例の気管支上皮異形成、4例の肺胞上皮腺腫様増生をISH法にて、EBVのEBER1の発現を検索したが、EBV陽性所見はこれらの異型上皮にはみられなかった。現在、更に症例を集め、検索準備中である。 4)10例の胎児、5例の新生児、3例の小児、10例の成人の非腫瘍性で非炎症性の肺組織をISH法で検索したが、EBV陽性例はみられなかった。 5)宿主細胞のトランスフォームに関連するEBV遺伝子産物であるLMP1,EBNA2に反応する抗体を用いて、ABC法にて上記の2)の肺癌、3)の異型上皮のホルマリン固定パラフィン切片を免疫染色したが、LMP1,EBNA2は陰性であった。 6)Polymerase chain reaction(PCR)法にて上記の2)の肺癌10例、3)の異型上皮3例のホルマリン固定パラフィンブロックより抽出したDNAのEBVゲノムのBam HI W断片反復塩基配列を検索したが、EBV-DNAは検出されなかった。 7)今年度新たに検索した範囲では肺癌や異形上皮、腺腫様増生ではEBVは検出されなかったが、間質性肺炎の症例で過形成性の末梢細気管支上皮にEBV-RNAが検出された。既にEBV蛋白質に対する抗体を用いた二次性間質性肺炎の免疫組織化学的検索ではその細気管支上皮や肺胞上皮に免疫反応性があることが報告されており、今回の検索で初めてEBV核酸が証明され、間質性肺炎の末梢細気管支上皮がEBV感染の標的細胞である可能性が明かとなった。この現象は既に私が報告したEBV感染肺癌が全例末梢発生であった事実とも合致している。また、その間質に浸潤するリンパ球の少数にもEBV-RNA陽性細胞がみられることから考えて、肺局所における免疫学的異常とEBV感染が関連している可能性があるが、今後、間質性肺炎の原因別にも詳しく検討する必要があると思われる。また、EBV感染肺癌のカウンターパートとして、高癌化状態とされる間質性肺炎のEBV感染末梢細気管支上皮を位置づけるとするなら、そのEBV遺伝子産物発現や癌遺伝子、癌抑制遺伝子の発現や異常についても検索する必要があると思われた。
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