研究概要 |
近年、冠動脈硬化症に対する新しい治療法として、経皮的冠動脈形成術(PTCA)が広く行われるようになり成果をあげている。しかし、PTCA施行例では、約30-40%に再狭窄が発現することが知られており、臨床上の大きな問題となっている。これまで、我々の研究などにより、PTCAにおける再狭窄発現の主たるメカニズムは、ヒト平滑筋細胞の過剰な遊走・増殖であることが明らかにされている。 従来、血管平滑筋細胞の遊走・増殖機序については、主に実験的解析がなされており、ヒト血管平滑筋細胞の遊走・増殖メカニズムに関する研究はきわめて少ない。 我々は本研究において、ヒト冠動脈のPTCA傷害後の平滑筋細胞遊走・増殖過程では、血小板由来増殖因子(PDGF)のリガンド-レセプター系、特にPDGF-BとPDGF-βレセプターのup-regulationが認められることをin situ hybridizationおよび免疫組織化学的方法を用いて始めて明らかにした(Ueda M et al.Am J Pathol 1996,Tanizawa S et al.Heart 1996)。また、ヒト血管平滑筋細胞の遊走・増殖の初期過程には、細胞外マトリックスであるテネイシンの発現増加が関与していることも明らかにした(Tanabe S et al.Transpl Int 1996)。さらに、ヒト平滑筋細胞の遊走・増殖過程でみられる平滑筋細胞の脱分化・再分化現象においては、我々がすでに報告したアクチンアイソフォームの変換(Ueda M et al.Coron Artery Dis 1995)のみならず、ミオシン重鎖アイソフォームの発現変化も起こることを初めて示した(Aikawa M et al.Circulation in press)。また、これまでin vitroのみで報告されてきた血管平滑筋細胞の遊走・増殖抑制作用を有するC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)が、実際ヒト冠動脈壁に存在していることを初めて明らかにし、平滑筋細胞の遊走・増殖制御に重要な役割を担っていることを示した(Naruko T et al.Circulation 1996)。
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