慢性リンパ球性甲状腺炎においては甲状腺乳頭癌の発生が生じやすく、慢性リンパ球性甲状腺炎には甲状腺発癌促進作用があることを証明するため、以下の検索をして新しい知見を得た。 1)日本人、米国白人・黒人甲状腺手術摘出症例の病理組織学的観察により、甲状腺乳頭癌が、他の甲状腺疾患(濾胞腺腫、線腫様過形成)と比較して、有意にリンパ球性甲状腺炎の合併率が高いことを明らかにした。すなわち、日本人女性甲状腺乳頭癌症例では63.0%、男性では50.0%、米国白人女性では76.0%、白人男性では53.6%、黒人女性では46.2%といずれもリンパ球性甲状腺炎の高い合併率を示した。 2)甲状腺各疾患、慢性リンパ球性甲状腺炎、甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞腺腫、腺腫様過形成、Graves病における、甲状腺濾胞上皮細胞の細胞死を、DNA nick end labeling法によって同定・算定した。更に、同一病変で、抗Ki-67抗体を使用した免疫染色にて陽性率を算定し、濾胞上皮細胞の細胞増殖能を比較した。その結果、慢性リンパ球性甲状腺炎は自己免疫現象のため、甲状腺濾胞上皮細胞のアポトーシスを含む細胞死が有意に亢進しており、それに反応して細胞増殖も増強していることが判明した。 以上より、自己免疫性炎症による甲状腺濾胞上皮細胞死の亢進-細胞増殖の持続した亢進-甲状腺発癌の促進という経路を、一部証明し得た。今後は、この甲状腺炎-甲状腺乳頭癌連関の存在を、遺伝子レベルで証明する必要があると考えられる。
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