Nm23遺伝子の発現と腫瘍の転移能との真の相関性を追求すべく、ヒト正常各組織、肺癌、子宮体部癌組織におけるnm23蛋白の発現量およびそのアイソフォームであるH1、H2蛋白の割合を化学発光法を用いた半定量的免疫ブロット法を用いて検索した。さらに、AMeX固定組織を用いた免疫染色も併せて行った。その結果、正常組織ではnm23蛋白のH1蛋白に相当する20.5kDとH2蛋白に相当する18kDの二本のバンドが心筋組織や骨格筋組織を除いた各組織で認められ、その程度は組織により様々であった。常に、H1に比してH2蛋白量が上まわっていた。各組織のH2/H1比も組織により様々であった。免疫染色では肝臓、膵臓や大腸粘膜のように上皮組織に一様に染色される群と、胃粘膜や腎臓組織のように上皮細胞の種類に応じて染色態度の異なる群に二分された。肺癌組織では癌組織、同一患者の末梢肺組織を免疫ブロット法で検討した。その結果、末梢肺組織、肺癌組織とも常に正常各組織の場合と同様にH1とH2蛋白に相当する2本のバンドが検出され、それぞれのアイソフォーム量は末梢肺組織に比して肺癌組織では増加していた。腫瘍のH2/H1比は末梢肺組織に比して腫瘍組織では低下していた。肺腺癌ではnm23蛋白の程度は転移能とは無関係であり、組織学的分化度と相関していた。肺偏平上皮癌では一定の傾向は認められなかった。さらに、子宮体部癌組織ではnm23蛋白のH1、H2蛋白の発現量の変化と腫瘍の転移能との間には相関性は認められなかった。nm23蛋白の量アイソフォーム量は腫瘍の分化度と相関性が認められた。以上から、正常組織においても、臓器によりnm23蛋白の量、H2/H1比は大きく違うことより、腫瘍組織におけるこの蛋白の発現量の変化を検討するには相当する非腫瘍組織における量を考慮することと、両アイソフォームごとにその量の変化を検討する必要性が確認された。
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