研究概要 |
ヒトのレトロウイルスであるHTLV-Iが関与している成人T細胞白血球(ATL)は,感染後長い潜伏期を経て発症する。それ故,潜伏期間中のウイルス感染細胞の変化が発症に関係すると考えられる。感染者体内におけるウイルス感染細胞動態究明のため,ATL患者(2名)とその家族(HTLV-I抗体陽性者7名,陰性者3名)の末血リンパ球DNA中のHTLV-I-LTR,-gag,-tax遺伝子をPCR-SSCP法でサザン解析した。患者及び抗体陽性家族ではLTR, gag, taxが全て陽性であった。抗体陰性家族ではtaxは陽性であったが,LTRとgagは陰性であった。抗体陰性家族のDNAのLTR領域PCR産物には多数の変異が認められたので,抗体の有無はHTLV-I関連遺伝子の変異の有無と関連していると考えられた。今年度はさらに,その他の人体腫瘍として抗体陽性者を含む胚細胞腫瘍患者(16名)とEBウイルス感染が認められた鼻咽頭癌患者(18名)の腫瘍組織より抽出したDNA中のHTLV-I-LTR遺伝子をPCR-SSCP法で解析した。内在性レトロウイルス遺伝子(HRES-1)が存在するとされる胚細胞腫瘍では検索16例中11例(68.8%)で陽性であった。また,検索した鼻咽頭癌18例中15例(83.3%)がHTLV-I-LTR陽性であった。鼻咽頭癌について細胞増殖関連遺伝子産物発現を単クローン抗体により免疫挿組織学的に調べた結果,細胞増殖関連蛋白(PCNA,Ki-67),癌抑制遺伝子産物(p53),アポトーシス関連遺伝子産物(bcl-2)の発現異常が未分化癌において扁平上皮癌より著明であった。以上の結果から,HTLV-I関連遺伝子をもつ細胞の他のウイルス重感染などにより遺伝子再構成および遺伝子脱制御をおこし易い可能性が示唆された。
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