研究概要 |
濾胞性リンパ腫(FCL)は低悪性度リンパ腫であり高悪性度群びまん性リンパ腫へ60-80%の患者が進展する。この進展過程は組織形態学的に把握されるが、この過程における分子偏位の解析はp53の突然変異が高悪性度群びまん性リンパ腫へ進展した患者の20-30%に認められた以外には十分な報告はない。CD44抗原は膜貫通性の受容体型糖蛋白質であり、細胞質内ドイメインに二つのリン酸化部位がある。この分子は生体に広く分布し分子量により1)85kD(CD44H),2)120-140kD(CD44H)の分子と,プロテオグリカンの付加により3)200kD以上の蛋白群に分類され、非刺激状態では1)は血液細胞、2)は上皮細胞に組織特異的に存在する。最近、細胞膜近傍の細胞外ドメインにヒトでは10個のエクソンの選択的スブライシングが起こることにより種々の同位体が形成され上皮性腫瘍や血液腫瘍の転移と進展に関わる分子として最近注目されている。我々のFCLの研究では、濾胞構造の崩れのないFCL小細胞型の腫瘍細胞にはCD44の発現は、反応性濾胞芽中心のB細胞と同様陰性であったが、腫瘍性B細胞が周囲に浸潤し、濾胞構造に乱れが生じるような時期になるとCD44は陽性となることが観察されている。このCD44はCD44Hであって、他のCD44同位体の発現は見ない。しかし、FCLが一部で瀰漫性増殖を示す時期に進展すると、種々の同位体がPCRのレベルで観察される。また、t(14:18)を有する瀰漫性大細胞型Bリンパ腫においてはCD44H,他の同位体の発現は量、数ともに増加する。しかし、蛋白レベルではCD44同位体の発現は確認できなかった。大腸癌やリンパ腫を用いた研究で提起されている腫瘍の転移能との関連は確実なものではなく、むしろ、腫瘍の浸潤過程におけるCD44分子の関連が強く示唆された。このことはFCLの腫瘍化の早期に、CD44H分子発現が起こり腫瘍のプログレッションにともないCD44同位体をtranscriptのレベルで発現している可能性が示唆された。
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