研究概要 |
本研究の目的は炎症と細胞情報伝達に深く関わっているアラキドン酸カスケード系酵素であるホスホリパーゼA2,シクロオキシゲナーゼおよびリポキシゲナーゼの発現状態を発癌過程に沿って追跡することにある。今年度は1-hydroxyanthraquinone(1-HA)のみによるラット大腸発癌モデルを用いた。このモデルは1-HAによるヒトの漬瘍性大腸炎様の粘膜びらんや陰窩膿瘍形成を認め、炎症性病変も誘発しうるため、アラキドン酸カスケード系酵素の変動を見るのに適していると思われる。 [材料と方法]40匹のF344雄ラット二群に分け、一群に1%1-HAを投与し、他群は対象群とした。非腫瘍性大腸粘膜および腫瘍病変を回収しRNAを抽出した。各種酵素に対する特異的プライマーを作成し、reverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)を行った。RT-PCRで得られたDNAは放射性同位元素をラベルする事で液体シンチレーションカウンターにより定量化した。尚、同一材料からのβアクチンの発現との比により各サンプル間のmRNA量の補正を行った。 [結果・考察]9および18ヵ月の1-HA投与後、腫瘍発生はそれぞれ10%,50%の頻度であった。炎症性病変の粘膜びらんは20%,60%の頻度で見られた。1-HA投与群粘膜ではホスホリパーゼA2、クロオキシゲナーゼのmRNA発現は非投与群に対して有意に上昇した。特にホスホリパーゼA2は腫瘍部において非腫瘍部に対し上昇する傾向をみた。しかしながら、リポキシゲナーゼは1-HAによる変動は認めなかった。これらの結果は従来伝われてきたプロスタグランディン(PG)系の特にPGE2の大腸発癌の関与を示唆した。今後は化学予防剤によるこれらの酵素系の変動を調べる。
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