研究概要 |
DMBA(7,12-dimethylbenz[a]anthracene)で誘発されたラット赤芽球系白血病には、その発生初期から高頻度に再現的な第2番染色体のトリソミ-をもつことが観察されている。最近、この白血病には染色体異常の有無とは無関係にN-ras遺伝子のコドン61の2番目の塩基にAからTへの点突然変異が存在し、この変異は前白血病状態の8例中2例にもみられ、初期段階から存在することがわかってきた。骨髄中のN-ras変異を鋭敏に検出できるMASA(mutant allele specific amplification)法を開発して、DMBA投与後の発癌過程におけるN-ras変異の意義を検討した。これは、3'側に正常配列、異常配列をもつ2種のプライマーと下流の配列との間でPCRを行い、産物を電気泳動して検討する方法である。N-ras変異を有する細胞を正常細胞(無処置のLong-Evasラットの胸腺細胞)で薄め、1/1、1/10、1/10^2、1/10^3、1/10^4、1/10^5倍などの比率の検出感度をテストした結果、1/10^6程度の検出力があり、ある程度定量的にこの特異的点突然変異を持つ細胞の骨髄内での割合が推定できることがわかった。ついで、DMBA投与後1、1.5、2、4、8日のN-ras点突然変異の骨髄中での検出をMASA法を用いて試みた。DMBA投与後1日後、1.5日後には5例すべてに変異はみられなかったが、2日目、4日目には5例中3例に変異が認められた。前白血病状態の8例中5例にも量的な差はあるものの変異が確認された。この変異についてはN-butyl-N-nitrosoures(BMU)200mg/kg投与し後2、4日目の急性効果、および、0.04%BNU水溶液の持続投与開始後30日目とを比較したところ、この点突然変異は検出されなかった。
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