研究概要 |
7,12-dimethylbenz [a] anthracene (DMBA)を静脈内投与したLong-Evansラットには赤白血病が誘発される.この赤白血病のras遺伝子の異常について検討した.7種の細胞株、21例の原発白血病を解析した結果、すべての細胞株と18例(86%)の原発白血病にN-ras遺伝子のコドン61にCAAからCTAへの変異(Gln→Leu)が共通にみられた.N-rasの他の塩基、およびHa-,Ki-rasにはいずれも変異はみられなかった.続いて、N-rasの異常が発癌の初期段階における標的としての特異性を持つ可能性について検討するために、10^6の正常細胞の中から1個の変異をもつ細胞を検出できるmutant-allele-specific amplification(MASA)法を用いて検討したところ、DMBA投与後48時間後には1/10^6程度の骨髄細胞に生じておりことが明らかになった.しかし、N-ras変異のみでは白血病発症に至らず、発癌過程では更なる遺伝子変化が加わること必要であると考えられたが、いくつかのDMBA白血病の細胞株でN-rasの野生型アリルの欠失がみられ、これがN-ras変異に続く第二の変化の可能性が考えられた。更に原発白血病で検討したところ、N-rasの変異をもつ18例のうち、野生型アリルの欠失は12例、N-rasの周辺の遺伝子座であるHSD3BあるいはD2N91のマーカーで一方のアリルの欠失を9例に確認した.この結果、野生型アリルの欠失が再現的に起こることが確認され、N-ras変異に続く遺伝子変化の一つである可能性が示唆された.これらの結果から、DMBA白血病の発癌過程ではまず早期の段階でN-ras点突然変異が生じ、さらにN-rasの野生型アリルの欠失が起こることによって白血病の発症につながることが推測される。
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